共同ブログ

ヒッキー小説

家庭内暴力を通報

ひきこもり小説(ヒッキー小説)を書いてもらいました。暴力描写があります。


「…寒い。リモコンリモコン」

季節は冬、だと思う。
毛布にくるまるくらいじゃこの寒さはしのげそうにない。
俺は手元にあるリモコンで暖房をつけた。
暖房の暖かい風が徐々に部屋に広がっていく。

のそのそとPCの電源をつけ、今日も僕はネットゲームを開始した。

《こんばんはー》

《もう始めてるよ》
《やっほー》

《ログインした》

「よし!」

ネットゲーム仲間に軽く挨拶をし、ゲーム画面を開き、いざ楽しもうかという時だった。

「きこえてないの?」

突然肩に手をおかれ、装着していた爆音のヘッドフォンを外した。
目の前に現れたのは母親だった。

「…なに」

返事をするのも面倒で、振り返らず返事をした。

「…またゲーム?」
「忙しいからあっち行けよ」
「明日…」
「今何も話したくない」
「でも…」
「うるさい!!!!!!!」
「痛い痛い…っ!」

ついに俺の怒りが爆発した。
俺は母親の髪を掴み、そのまま部屋の外へと追いやった。

「入ってくんなよ…っ」

勢いよく扉を閉めて、急いでゲームへともどった。
チャット画面に、「トイレに行っていた」と打ち込み、ゲーム再開。

「チッ」

俺は世間一般でいう引きこもりというやつだ。
なぜ引きこもりになったのか。

あれは大学生になったばかりの頃だった。

——————–

小、中、高と、俺はクラスでも目立たないタイプで、部活にも入らず、学校が終われば即、家に帰るような奴だった。
当然だが友達は少なかった。
いや、少ないという表現は間違っている。
一言二言を話すことが出来たというだけで、一緒に遊びに行ったこともなかった。
友達ではなかったのかもしれない。

そんな俺は、大学という新しい環境に胸を踊らせていた。
俺だって人間だ。そして男だ。
彼女のひとりやふたり、欲しくなって当然だ。
大学ではさまざまなサークルがあり、所属していれば彼女が出来やすいということをネットで知った。

入学して早々、俺は旅行サークルに入った。
旅行サークルとは、サークルメンバーといろんな場所に旅行をして、宿泊した場所、絶景スポット、珍味などを纏め、それを雑誌にするというサークルだった。
男子よりも女子の比率が高く、女子のレベルも高い。

そうして初めての旅行サークルの日、事件は起こった。

「…無理です」
「また?」
「…すみません」
「正直なのはいいんだけどさ、そんなんじゃ旅行サークルに入った意味ないと思うよ」
「…が、頑張ります」
「頑張るならOKしてよね。はぁ…」
「…はい」

先輩、新入生と共に、次の行き先を決めていた時だった。
いろんな場所の案が出たのだが、俺はそのどれもに参加することが出来なかった。

旅行サークルはメンバー全員が納得した上で場所を決めることになっている。
みんなが賛成をしていても、俺にとってはどれもこれも安易に行ける場所ではなかった。

まず、海の家。
泳げない上に、宿泊費を海の家で働いてカンパしてもらうなんて面倒だ。
そして森の中の古い温泉旅館。
旅館までバスはなく、森を歩いて行くなんて、インドア派の俺の体力じゃ無理に決まっている。

「君どこにも行きたくないんじゃないの?」
「…そうかもしれません」
「じゃあずっとここにいれば?他のみんなで行くから」
「…はい」
「ねぇ、あの子いいの?」
「いいっていいって。最初は私もなかなか馴染めなくて可哀想な子って思ったけど、そうじゃなくて、ただ単に協調性がないのよ。やる気もないしね」

耳が痛かった。
俺はただ楽しく過ごしたかっただけなのに…。

ひとりになりたくて耳を塞いだ。

その日を境に俺は心を閉ざすようになった。

俺は引きこもりになり、見事、自分の暮らしやすい環境に身をおいている。
しかし、どう足掻いても親の存在というのは邪魔で仕方がない。
俺の人生だ。
俺がどう生きようが関係ないというのに、いちいち口を出してくる。

朝は決まった時間に起こしにくるし、いらないと言っているのに冷めた不味い飯を部屋の前に置いていく。

瞼が重い。

睡魔に襲われ、早急にベッドに入った。
ゲームは明日またプレイすればいい。
時間ならたっぷりあるんだからな…。

——————–

ドンドン

(……っ)

ドンドンドンドン

(…っさい)

ドンドン

「うるさいって言ってるだろ!!!!」

いい加減にしろと言いに部屋の扉を開けた。
そこには、鬼の血相で俺を睨む父がいた。

「…なに」
「お前こっちに来い…!」
「なんで…」
「…いいからこっちに来いって言ってるだろっ!!」

父は突然俺の腕を掴み、部屋から引きずり出そうとした。
突然の状況に頭が追いつかない。

俺は壁を必死に掴み抵抗を試みるが、長年引きこもっていた体は筋力が落ちていて、父の力には勝てず、そのままズルズルとリビングへと連れていかれた。

「…っ」
「ここに座れ!!」

俺は仕方なく床に膝をついた。
この時は、とりあえず言うことをきいていればそのうち終わる。そんな気持ちだった。

「こいつが息子です」
「ふーん、あんた名前は?言ってみなさい」

顔を上げると、目の前にはガタイの良い女性がいた。
健康的で血色のいい肌、無駄の無い筋肉、威圧のある強い視線。
俺は渋々声を発した。

「…です」
「そう。いい名前じゃない」

知らない人間が家に居ることもそうだが、俺は家にいるにも関わらず、部屋から出ることすら中々することがない為、以前と少し変わってしまったリビングに居心地の悪さを感じていた。

「単刀直入にきくけど、あんたなんで引きこもってるの?ん?」
「…!」

俺はなんとこたえればいいのかわからず、両掌を強く握った。

「黙ってないでこたえろ!!」
「痛いってば…っ」

父がすかさず俺の腕を強く掴んだ。
その状況をじっと観察するように、ガタイの良い女は黙っている。

「お前の為にわざわざ来てくれてるんだぞ?本当にどうしようもない奴だよ、お前は!!」
「いつまでも引きこもってちゃダメでしょ!わかってるの?!」

父と母に両側から責め立てられている。
父は今にも血管が切れそうだ。
母は普段こんなに声を荒らげることはないが、父の止まらない本音に連られて、溜まっていたものが爆発しているようだ。

うるさいうるさいうるさい…。

俺は父と母の隙をついて、二階の自分の部屋まで走った。
後ろから父と母が追いかけて来ている。

部屋の鍵を閉め、いつの間にか開いていた窓を閉め、近くにあった電気ストーブや椅子などを入口に固定した。

「開けなさい!!!コラ!!!」

ドンドンと部屋の扉を叩かれる度に、扉がしなっていた。
しかしこれだけ厳重にしたんだ。
そのうち諦めるだろう…。

「…仕方ない。扉を壊す!」
「!?!?!?」

部屋の外からきこえた父の一言と共に、扉に穴が空いた。
正確に言うと、俺が以前暴れ散らした際に空いた穴を広げたのだ。
穴から飛び出しているのは、野球が大好きな父のバットだった。

「オラ!!!オラ!!!!!」
「ヒッ…」
「お前が出てこないから扉がダメになっただろ!!!」
「じゃあやめればいいだろ!!!」
「お前が出てこればやめられるんだよ!!!オラ!!!」
「やめろって!!!!」

俺は涙と鼻水でグチャグチャになりながら叫んだ。
父をこれ程まで恐ろしいと思ったのは初めてだった。
こんな父を見たのも初めてだ。
本当にあの父なのか?

扉は突破され、俺はまたズルズルとリビングに連れ戻された。

そこにはやはり先程のガタイの良い女性がいた。

「そこに座りなさい」

俺は女性に命令されるがまま腰を下ろした。
今逆らったとしても俺には勝ち目がないと、悟ったのだ。
女性は俺がやっと聞く体制になったのを確認し、話し始めた。

「あんたダメよ?引きこもってても何にもいいことないんだから」
「…」
「なんとか言ってみ…」
「別に迷惑かけてないし」
「アホ!!!!親に十分迷惑かけとるやろ!!!!」

突然声を荒らげ、口調も厳しくなった。

「よぉ言えたな?お前の分際で何抜かしとんねん!!ちゃんと顔上げてこっち見ろ!!!」
「…っ」
「なんやその目は。言いたい事あるなら言ってみろ。ただ、今お前が何かしら言ったところで、言い訳にしかならんけどな!!!」
「…」
「今日からお前をうちの施設に連れて帰る」
「…え」

女性は冗談を言っているようには見えなかった。

俺が施設に…?

両親の顔を見ると、真剣そのものだった。

そうか…この為に…俺に逃げ場はない…のか…。

「荷物は用意してもらったから、ちゃんと親に挨拶したら、荷物を持って表に来なさい。車の用意しとくから」

そう言うと女性はさっさと立ち上がり、部屋を出ていった。

そこからの記憶はあまり無い。

呆然としたまま俺は3日分程の着替えだけを詰めたバッグを持たされ、白い車に乗り込んだ。

遠ざかる家と、小さくなっていく父と母。
その目は泣きそうな目をしていた。

——————–

「荷物持ってついておいで」
「…」

三時間ほど車に揺られ、三階建て程の施設についた。
あたりはすっかり夜になっている。

「入口は階段になってるから気をつけるんだよ」
「…」
「返事くらいしなさい」
「…はい」

俺はこの施設でどうなってしまうのか。
帰りたい、今すぐ。

きっと地獄の日々が始まるのだろう。

足取り重く、俺は女性の背中についていった。

end


2017年4月10日 月曜日 おいなり