共同ブログ

自助会殺人事件

殺人

これは、さっきのとは別の人に書いてもらったひきこもり小説! 暴力表現あります!


 白柳二郎は普通の青年だった。教育熱心な両親に育てられ、頭もそこそこ良く、無事に大学まで出られた。
 しかし就職活動がうまくいかず、その反動は大きかった。自室にひきこもり、ゲーム機のコントローラーを握ってぼやく。
「ゲームはうまくやれるのにな……」
 教育熱心だったはずの両親はこんな息子になにも言わない。失望の気持ちが大きいのだろう。
 むなしくモンスターを虐殺していくが、油断したのか殺られてしまう。舌打ちしてコントローラーを放り投げる。それから寝転がり、しばらくぼーっとしていた。
(このままじゃいけないよな……)
 おもむろに起きあがり、パソコンに向かう。求人情報を検索していくが、どれもピンとこず溜め息を吐く。
 今日も検索するだけで終わりそうなところ、二郎は今まで検索してこなかった『ひきこもり』というワードをなんとなく入力してみた。
「自助会……?」
 シンプルなレイアウトのサイトの『ひきこもりで悩んでいる方へ居場所を!』という謳い文句が目に入った。

 救いがあるかも知れないという期待と、久々の外での交流に緊張を覚えながら二郎は自助会へ向かった。参加者は若い女性から、男性、頭の禿げあがった中年、髪も髭も伸び放題の仙人のような人もいて混沌としている。
 自己紹介もそこそこに、みな次々と喋りだす。
「私が引きこもりになったのは……」
「僕は……」
(だめだ、ついていけない)
 自助会のルールは言いっぱなし、聞きっぱなしである。二郎は話すタイミングが掴めず、黙ってしまった。ほかにも俯いて黙ってしまっている人はちらほらいる。
(やっぱり、こんなの意味ないか)
 話し合いが終わり、参加者の大半が二次会へ向かうムードになる。
(なんで二次会行けるんだよ。ひきこもりが……)
 そう心の中で毒づきつつ、二郎は自助会へ背を向けた。
「あれ、あなたも二次会参加しないんですか?」
 女性の声に振り向く。地味な顔立ちにメガネをかけていた。
「ああ……打ち解けられそうにないし、お金もないしさ」
「私と一緒ですね」
 女性がふわっとメガネ越しの目を細めて笑う。地味な容姿だが、その笑顔は魅力的に映った。
(確か、自己紹介のときに岡田真理亜と名乗っていたっけ)

「二次会とか苦手で。騒ぐのとか」
「僕もだよ。ひきこもりになってからすっかりコミュ障だし」
 それから何回か自助会に参加し、毎回二次会には出ず、二郎と真理亜はスーパーのフードコートで話していた。無料の水を飲み、マックのポテトをつまみつつ。
 SNSの日記に自助会で出会いがあったことを書いたら『マルチ商法の勧誘だろう』とコメントされてしまったが、勧誘してくる様子はなかったから二郎は安心して楽しく真理亜と交流している。もう連絡先も交換し、仲は深まっていった。
 そして自然に、男女の関係に発展していく。割り勘で入ったラブホテルのベッドの上で、真理亜は二郎の背中に手を回し、目を潤ませながら言った。
「やっと、ずっと愛し合える関係になれた……」
 このとき、二郎はまだ知る由もなかった。真理亜はマルチの勧誘なんかよりも、ずっと恐ろしいのだと。

 スマホの着信音が鳴り続けている。
「もう、なんなんだよ!」
 叫んでも、LINEの既読を求める鳴き声はやまない。
 二郎は女性と交際したことのない童貞ではない。秒単位のような間隔で連絡を求めてくる真理亜の異常性にすぐ気づき、自助会へは行かなくなった。
 しかし距離を置いたことで真理亜の連絡攻撃は苛烈なものになった。SNS上の知り合いから『真理亜って人から二郎くんはどうしていますか? ってメッセージが何通もくるんだけど』と教えられたときは肝が冷えた。
 スマホの着信音が突然止む。ほっとしていると、母の声が聞こえてきた。
「二郎、お客さま」
「客?」
 ひきこもりである自分に来客だなんて、誰だろう……と訝りながら玄関へ向かって、二郎は腰を抜かしそうになった。
「二郎くん、自助会に全然顔出さないじゃない。私の連絡も返さないし、どうし……」
「帰れよ! どうやってうちの住所調べた!?」
 怒鳴ると真理亜の肩がびくっと跳ねる。構わず真理亜を外へ突き飛ばす勢いで追い出す。
「きゃっ!」
「お前とはもう終わりだ!」
 閉じられたドアを真理亜は尻餅をついたまま呆然と眺めた。
「どうして? せっかく愛し合える関係になれたと思ったのに……」

 それから二郎のスマホはすっかり沈黙した。しばらくしてから一通だけ真理亜からメッセージが届く。
『今までごめんなさい。最後に一度だけデートしてくれないかな?』
 時が経ったおかげか二郎も冷静になっており、自分もひどかったかな……と思い、了承した。
 近所の山へハイキングという真理亜の希望も呑み、当日会った真理亜は笑って二郎を迎えてくれた。やはり、真理亜の笑顔は魅力的に映り、二郎は楽しく過ごせた。
「休憩しよう」
「ああ」
 やり直せるかも知れない、と思いつつ真理亜から差し出されたジュースを飲んだところで二郎の意識は途切れる。

「あなたが悪いんだからね」
 睡眠薬で昏睡している二郎の首を真理亜はロープで絞める。笑いながら。
 アル中の父に殴られ、母は見て見ぬふり……
「私を愛してくれないから……」
 幼少の頃をなぜか思い出す。数回痙攣して息絶えた二郎から離れた。
「これからどうしようかな……また自助会に行こう……今度こそ私を愛してくれる人、探さなきゃ」
 愛に飢えた女は魅力的に見える笑顔を浮かべながら、独り言ちた。


2017年4月14日 金曜日 おいなり